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妻の死(3)


救急車で運ばれた病院では直ちに蘇生のための緊急処置がとられた。

しかし搬入時にすでに心肺停止状態であり蘇生は不可能だった。

同時に警察による調査が実施された。警察の判断では犯罪の可能性も否定できない。

第三者のいない密室での出来事だからだ。普段の看病の様子やベッド上での妻と私の位置など

執拗な事情聴取が続いた。その時女性警察官が遺体の床擦れの後がきれいに治癒されており

夫による犯行ではないとささやく声が届いた。

その後遺体は髪をととのへ全身を丁寧に拭かれ

葬儀社の車の到着を待った

葬儀社は生前、死を覚悟していた妻が申し込んでいた葬儀社だった

零時過ぎ葬儀社の社員との打ち合わせが行われた

参列者の人数によって葬儀会館の利用する部屋が決まる。予想される参列者の人数は?

お坊さんを頼むにあたって宗教は?とか食事はどうするかなどなど社員は手慣れた感じで進めるが

今すぐには決められないので親戚とも相談して一日置いて返事をするというのが精いっぱいだった。

深夜1時過ぎやっと解放され自宅に帰ることになった

ところが駅前とはいえ小さな駅ではタクシーは来ない

緊張から解き放されたせいかたちまち寒さが襲ってきた

そのとき葬儀社で渡された彼女の遺品の中にちゃんちゃんこが入っていた

彼女は寝たままだったので着替える間もなく寝巻のまま運ばれたのだが

その時枕元に置いてあったそのちゃんちゃんこが入れられていたのだ。

私はそのちゃんちゃんこを羽織ってみた。

温かい!

妻は亡くなっても私を助けてくれる

私はその場に泣き伏した。



 
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プロフィール

無庵

Author:無庵
忘れられた古代港がある。都から遠く離れしかも主要航路でなかった北四国側にあったこの港に、軍王、人麻呂、道真、崇徳院、西行、寂念など飛鳥、平安時代を代表する詩歌人が足跡を残す。しかも彼らにとっていずれも重要な意味を持つ作品を残している。坂出松山の津はまさに奇跡の港と言えよう。
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